東京地方裁判所 昭和38年(ワ)3227号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕被告会社が本件交通事故につき損害賠償義務を負うか否かについて判断する。(自動車損害賠償保障法第三条は民法に規定する不法行為の特別法であり、両者は法条競合の関係に立つものと解せられ、したがつて自動車の運行によつて人の生命又は身体が害せられたときは、その損害賠償請求は自動車損害賠償保障法第三条によつてなすべきものと解せられるから、原告らの本訴請求のうち原告ツル子の人的損害の請求については自動車損害賠償保障法第三条によつて判断をする)
被告会社が<編注、その商号は株式会社加賀建材>、砂利、砂、セメント等の建築材料の販売を目的とする会社であること、加害車の車体に「加賀建材株式会社」なる文字が大書されていたこと、被告菊池が訴外石田の被用運転者であること、被告会社が訴外東京いすずから加害車を代金完済まで所有権を留保して割賦販売により買い受け無償で使用していたところ、昭和三六年二月一日訴外石田に対し加害車を代金完済まで所有権を留保して割賦販売により売渡し無償で使用せしめていたこと、本件交通事故当月までに被告会社から訴外東京いすずに対する割賦代金ならびに訴外石田から被告会社に対する割賦代金はいずれも未だ完済されていなかつたことは当事者(原告らと被告会社)間に争いがない。
右当事者間に争いがない事実と<証拠>によれば被告会社の訴外石田に対する加害者の売買は他人すなわち訴外東京いすずの物の売買――割賦代金がいずれも完済されるまでは加害車の使用権の譲渡――であつて、割賦代金が完済されていなかつた本件交通事故の時には加害車の所有権は未だ東京いすずに属していたものと認めることができ、右認定を左右する証拠はない。
而して、<証拠>によると、訴外石田は貨物自動車を用いて建材業を営んでいるうち、昭和三三年頃被告会社に石炭ガラを納入していたことから被告会社に出入するようになつたが、右貨物自動車の割賦代金を支払うことができなくなり売主に右貨物自動車を引取られ建材営業に支障を来たしていたところ、たまたま被告会社が訴外東京いすずから加害車を含む貨物自動車約一〇台を購入したものの貨物自動車が多すぎて持て余しているのを知り、昭和三五年二月頃被告会社から訴外岡田某と共同で加害車を含めた五台の貨物自動車を割賦で買受け使用していたが、昭和三六年二月一日に右五台の貨物自動車を訴外岡田某と分割して加害車を含む三台の貨物自動車を訴外石田の分として引取り、引続き使用し、昭和三六年末頃まで被告会社の注文に応じて被告会社の貨物を運搬したこともあつたが、料金が安いということで昭和三七年になつてからは被告会社の注文に応じなくなつていたこと、ところが被告会社に対する割賦代金を完済していないので、加害車の車体に大書されていた「加賀建材株式会社」なる文字を抹消せずそのまま存置し、加害車の登録原簿の記載も被告会社が使用していた時のままとしていたこと、被告菊池は訴外石田に雇われ同人から給料を貰つて自動車運転に従事していた者で、昭和三六年中には訴外石田が被告会社から注文をうけた砂利運搬に従事したこともあつたことを認めることができ、証人石田晩龍の証言中右認定に反する部分は前掲証拠に照らしにわかに採用し難く、他に右認定を左右する証拠はなく、本件全証拠によるも本件交通事故の際被告菊池が被告会社の業務執行につきもしくは被告会社のために加害車を運行していたことを認めるに足らない。
そうして、前記当事者間に争いのない事実および右認定事実のうち、加害車の車体に「加賀建材株式会社」と大書され加害車の登録原簿の記載が被告会社が加害車を使用していた時のままであることは一見被告会社が被告菊池訴外石田の使用者であり、被告会社が加害車の運行供用者であるかの如くであるが、これらは、いずれも訴外石田から被告会社に対する割賦代金が完済されないことから存置されたものであり、訴外石田の第三者への転売を防止するための策として首肯しうるものである。のみならず、この一事実をもつて被告会社が自ら加害車によつてなす営業のすべての責任を負担すべき旨を表示したとか、被告会社が自ら客観的に被告菊池ないし訴外石田を指揮監督すべき地位に立つたとか、被告会社が加害車の運行を支配し、その運行による利益をえているものとは認め難い。
したがつて、被告会社が本件交通事故につき(物的損害につき)民法第七一五条ならびに(人的損害につき)自動車損害賠償保障法第三条の責任を負うものとはいい難い。(丸尾武良)